我輩は犬である

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今日の散歩はいろんなことがあって疲れたな〜。。。


我輩は犬である。名前はイチローという。ご主人様が勝手に付けた名前だがこれといって不満もないし、自分の気に入った名前も別段思いつかないので、それでよしとしている。何でもご主人様が大好きな野球選手らしいのだが、我輩にとってはどうでもいいことである。
さて今日は令和元年の初日5月1日である。それに伴い新天皇が即位した。ご主人様とは同じ年に生まれたらしく、朝から妙に興奮している。「なんで退位の礼や即位の礼に皇后様が出ないんだ。男女平等なんてお題目だけじゃないか、右翼サイテー」なんて朝から声高にテレビに向かって叫んでいるが、それよりも我輩にとっては今日の天気が気がかりである。

ご主人様は雨の日は散歩に出ないのである。それを我輩のせいにして「イチローは雨が嫌いだからなー」とかなんとか言って散歩を怠ける言い訳にしているのである。

朝食後窓から空を心配そうに見上げているご主人様を見ながら、ワザと熱い視線を送る。じっと我輩の目を見る。「しょうがない。そんなに行きたいか…」などと言いながら、やっと決心がついたらしい。何しろご主人様もメタボリックシンドローム気味なので、散歩には積極的に行った方が身のためだ…などと心配するのは、主人を思う犬心か。

それにしても今日は体が重い。昨日は1日雨で散歩に行かず、つい昨日の分の排泄物をお腹に溜めてしまった。散歩が始まりしばらくしていい場所を見つけたので、その辺をうろうろすると、ご主人様もそれきたかと小さなビニール袋をポケットから取り出す。「おい、イチロー、でもここは人の家の真ん前だぞ」などと言っているがもう遅い。既にその体勢に入り用を足していると、マズイことにその家の車らしき黒いバンが入り口から入って来た。何気に止まってこちらを見ている。ご主人様は焦った気持ちを抑えるように、如何にも優等生的飼い主のような態度で我輩のその物をビニールの袋をひっくり返して手慣れた手付きで片付ける。そしてまるで「ちゃんと片付けましたよーだ」と言わんばかりに袋の口を閉めている。黒いバンは無事に家のガレージに入って行った。

それから無言で暫く行くと、森の公園に至る。世はゴールデンウィーク、10連休で、こんな時には普段は静かな山奥の公園にも人がいる。何やら行く手にピンクの軽自動車が止まっており、老人が一人森の中で春の山菜採りをしているらしい。優等生飼い主を装うご主人様が「こんにちはー」などと若ぶって声を掛けると、その老人がいきなり焦った様子で丘を駆け下りこちらに向かってくる。何事かと思いきや、突然茂みから老人の飼い犬らしき繋がれていないピットブルが凄い顔して我輩に向かってくるではないか。普段気の優しい我輩は喧嘩など好むところではないが、売られた喧嘩は買わねばならぬ。どうやらガタイは我輩の方が少し大きいようだ。ピットブルが飛び掛かり、我輩も応戦しようと身構えた時、飼い主の老人が飛び出して来て「こらこら!ダメじゃないか」と言ってそのビットブルを必死に止める。我輩はここぞチャンスと思いこちらから飛びかかろうとすると、今度はご主人様が「こらこら!イチローダメじゃないか!」と必死で引っ張る。何とか引き離されたかと思いきや、何ともう一匹のピットブルが必死の形相で吠えながら我輩に向かって来るではないか。これはもう防ぎようがない。「ガウガウガウ!」などとお互いに縺れ合うと、賺さずご主人様が引っ張って離そうとする。そのうち我に帰ったご主人様が我輩を強く引張ってその場を走り去った。二匹のピットブルのチームワークは思ったよりも強く、このままでは我輩が可哀想なことになってしまうだろうと察したのかもしれない。多勢に無勢である。走り去るご主人様と我輩の背中から例のピットブルの飼い主の老人が大声で詫びている。そうだ。あんたが悪い。いくら山奥の森の公園だからといってピットブル二匹を放しておくなんて非常識だ。もう少しで血を見るところであった。

むしゃくしゃした気持ちがおさまらぬ内に今度はのら猫を発見。さっきの八つ当たりをしてやろうかと走り出して追おうとする我輩を引っ張るご主人、「Forget about it!」何て言ってる。突然英語になるなよ。ここは日本で我輩は日本犬である。

「新天皇皇后陛下共に外国への長期留学経験もあり、語学も堪能だ。6年も10年も英語を習っても話せない…話さない日本人のために見本となって国際親善に尽力して欲しいよねー」なんて我輩に向かって話しているのか、独り言なのかよくわからないが我輩の散歩は黙々と続くのである。約4キロのコースを歩き帰宅すると、ご主人様が「令和最初の日の散歩は散々だったよな、イチロー」などと呟きながら我輩の排泄物の入ったビニール袋を外のゴミ箱に入れ、またテレビの前に戻って「いよいよ即位の礼だ!何で皇后陛下が出られないんだ。今の政府は間違ってる。次の天皇は絶対に愛子様だー」などと叫びながらテレビを見入っている。我輩は散歩後に十分に水分を補給し、テレビに夢中になっているご主人様の足元で横になる…わけではないがじっと座っている。

新天皇陛下の即位の礼とやらが始まり「威風堂々としていて素晴らしい!」などと何故か涙ぐんでいるご主人様の気持ちがさっぱりわからないのは、我輩は犬である…からである。